RAIN
- はるか みさき
- 2023年6月14日
- 読了時間: 12分
御克。無印後→ファンディスク直前の出来事。ちょっと仄暗い。BestEND後からの臆病な純愛変異ENDもおもしろいかもと書いたもの。 / お蔵入りになった短編集(未公開)の1つ。
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ぐっしょりと濡れたスーツを纏ったまま、御堂のマンションを目の前にして…
ただずんでいた。
…なんてありえない運命の廻り合わせだろう。
止みそうにない雨に打たれながら御堂との出会いに想いをふけってみる。
雨で視界がぼやけるのを感じながら、思うのは過去の出来事ばかり。
走馬灯のように流れるそれは…御堂のことばかりで。
夢の出来事だったようにも思うのは、御堂が極端に甘やかしてくれるからに他ならないのは解りきった事だけど…
今になって、それが現実的でなかったのだと思うと、泣きたくて仕方が無かった。
厳しい言葉のその裏にある優しさ、甘さを気づかなかったなんて言わない。むしろそれは
克哉自身も自覚していた事で。
「御堂さんはずるいです…」
などと、たまに反抗してみせても、それは単に恋人同士として…
甘いひと時を過ごす為の手段でしかない。
こんな不安な日に限って…勝手が違った。
それはそうだ。御堂は…傍にいないのだから。いつか、少なからず出てくる話題なのは
解りきっている内容。
胸に突き刺さったままの親友の本多の言葉が 頭から離れない。
たまには俺にも付き合え!!と ほぼ強引に前日の夜、飲みに付き合わされた、その時の会話が。
『あの御堂部長の恋人って…絶対、美人で…仕事もバリバリ出来る人間なんだろうなー!!
俺らには厳しい面しか見せない奴が~、恋人には甘いって噂だけど…うわ!!想像できねえ!!』
恋人には甘いというのは、自覚しているから解るけれど。仕事をきちんとこなしきっているとはどうしても、思えない。
必死に御堂に認めてもらえるよう、足掻いているだけだから余計…ちゃんと認めてもらえているのか気になって仕方がない。
そんな不安を駆られる言葉を耳にした日に限って、御堂は出張で 傍にいない。
明日帰ってくるとは言え、不安と寂しさが重なりどうしようもなくて…
気づけば、主のいないマンションの傍まで来てしまっていたのだ。
「御堂さん…早く会いたい…」
―ーーーー俺を決して離さないで
―ーーーー俺を拘束して
―ーーーー俺を…もっと愛して…
雨音が、ぽつぽつと小さなものになって
雨が…終わりを告げ知らせるように
晴れた夕暮れの空が、姿を現した。
「…克哉…」
ああ…空が晴れたのは、憂鬱な気持ちを流して
…御堂さんの声を 感じさせてくれる為のものだったのだろうか。
「克哉…?」
御堂さんの幻が、見えた気がしたと思うと…
目の前が真っ暗になっていった。
目が覚めると、いつの間にか見慣れた部屋…御堂さんの部屋にいるのに気づいた。
おそらくあの幻は…幻ではなく、予定よりも早くに帰ってきた本物の御堂さんだったのだろう。重くなった頭を働かせながら軽く、自己判断を終えると御堂さんが…スっと、
キッチンから顔を出してベッドで横になっている俺の様子を伺ってきた。
「まったく…吃驚したぞ。ずぶ濡れで、部屋にも入らず外にいるのだから…」
「すいません…考え事をしていたものだから…」
心配そうに額に手をあてながら俺を温かく見つめてくる御堂さん。
大事そうに、慈しむように時折髪をくすぐるようにして触ってくれるその手が、ひんやりしていて気持ちがいい。
「まだ…熱があるみたいだな…」
不安げな顔を見せながら言う姿は…どこか苦しそうで、居た堪れない。
俺が…そうさせてしまったのだ。
「御堂さん…ごめんなさい…」
「何を?」
「だって…俺こんな…」
ふう、とため息を尽きながら御堂さんは言う。
「まったくだな…何があったのかは知らないが…心臓が止まるかと思ったぞ?
理由を言いたくないなら、あえて聞く事をしないが…元気になったら…そうだな。
夜の覚悟を…しているといい」
「…あ…」
熱っぽく言う御堂さんの姿がたまらない。
煽られているだけの様な気がするのは…俺自身が、御堂さんを欲しくて…欲しくてたまらないからだろうか。
顔が赤くなっていくのを自覚してしまう。
「…おかえりなさい、御堂さん…」
ごまかすように、今更の言葉を 伝えていった。
SIDE 御堂■
「それで? 君は…どうしてあんな事を…?」
しっかりと、克哉の腰をとり 濡れた服を纏ったままにも関らず、シャワー室の前で問い詰めていく。
出張の為に克哉の元を離れる数日前から、様子がおかしかったのは知っていた。
おそらくくだらない理由だろうとタカを括って、いつものように 気にしない様にしていたのだが・・・克哉は違ったようだった。
「…ただ不安になった…とか、そんな単純な理由ではないのだろう…?」
克哉の体が震えた。
寒さだけではない、感情が強張っていくのが傍から見てもよく解った。
「…俺は…単純だから…本多の一言だけで、良くも悪くも左右される事だってありますよ…」
あまり大ごとな事では無いことを 克哉はアピールしてみせるが、顔色は青いまま。
説得力を求めようとしても、それは無駄な事だった。
くしゅん、という克哉の思わぬくしゃみで急ぐように 体をシャワーで温めて、さらにタオルで丹念に体を乾かしていく。
かなり長時間、体を冷やしてしまっていたのだろう。
よくシャワーで体を温めたといっても、まだ体の震えは治まっていない。
呆れと、心配とを入り混じらせた感情をむき出しに、克哉の体に触れていく。
「一体どれだけ外にいたんだ…君の体は、君だけのものじゃない。
いや…この体は、私だけが虐めていいはずなのだから…もうこんな事は…するな…!」
微かに震えた自身の手に、克哉は眼を見開いた。
私に想われている事を知らなかったなんて言わせない。
だけど、ここまでさせてしまったのは、他ならぬ自分自身で。
くだらない 感情だったとは思わないだろう。
だけど…雨の中…立ち竦んでいたのは失敗だったと…後悔ているように見えた。
「御堂さん…心配かけてすいませんでした…」
肩ごと抱かれているのを感じながら、克哉は謝罪を零す。しかし…そうはいかない。
「まったくだな…しかも…本多がどうしたっていうんだ…?」
まさかここで、聞き逃さないで言われるとは思わなかったのか、克哉は目を見開く。
嫌な予感と即座に思ったのか、背後に回ろうとする。
しかし、私は逃亡を許さない。
「み…御堂さん…っ…落…ち着きましょう…?」
「さあ…?それは…君の、返答次第だな…」
そう言って克哉を抱え込み、ベッドルームへと連行していったのだった――。
微かに灯る、ライトの灯りを頼りに、どさりと克哉の体ごとベッドへとダイブした。
同時に、吸いつくように克哉に口づけを交わす。
「ん…ん…はぁっ…」
キスの合間に漏れる克哉の吐息は官能的に情欲をそそらせる。
言うなれば扇状的という言葉を体現していて、私にとってもある意味中毒とも言える彼の痴態と吐息に、今も毒される。
「克哉……触るぞ」
「…、は、い…御堂、さん……」
今の今までキスに溺れていたせいで、欲に溺れた卑猥とも見える顔で、うっすらと怯えつつも私を見る。
その顔に、私はさらなる征服欲をかき立たせる。
ツンと尖った、私が育てた彼の感じやすい乳首を撫でると、彼は肩を跳ねさせる。
「あ…、ああ…、んぅ…、ぃゃ…、あっ!」
「嫌? そんな訳がないだろう? 腰も揺れているし、君のここも…やはりな。固くなってる。本当に君は、厭らしいな」
ククク、と笑いながら乳首を舐めてあげれば、彼は嬌声をあげる。
「ああああんん!!あうっ、あな、たが、俺を!そう、した、んじゃないですか!」
文句は言っても、揺れる腰が止まることはないのだから、彼の説得力などないようなものだ。
それがあまりにもおかしくて、思わず笑みがこぼれてしまう。
「そうだったな。ここは、私が育てた。…だがそこだけじゃない。ここも…そうだろう?」
「ひあう!!!!!」
言って、触ってやったのは、アナルだ。触ってみれば、私が触ってもいなかったのに、とうにとても熱くぐずぐずになっていた。微熱程度とはいえ実際に熱があるせいもあるとは思うが、それだけが理由とは思えない状況に、唇を弧にしていかない訳にはいかなかった。
「は、はは。君は本当に…厭らしく、堪らないな。それでいて、普段は清楚ぶっているのだから、こうして組み敷いた瞬間、疑ってしまう。君は、天性の淫乱なのではと」
ぐりぐりと、アナルの縁のほうだけなぞりながら言うと、彼は泣き出した。
「いやぁ…、ちゃん、と、奥、触って……貴方の、で…突いて……!!
……こん、な、俺は…きら、い、です、か…?」
普段もっとハードな事をしているから、生ぬるいやり方に彼自身も、ナカが疼いて仕方ないのか、息が絶え絶えになっている。だが、ここでは私もすぐには入れてあげるつもりはない。
「いや。むしろ…好きだな。解っているだろう?そんな君だからこそ、私も好きなんだと。
だが、まだ指も、道具も入れない。
解っているんだろう?これはお仕置きだと。言うんだ。何故、本多の名前がでる?
ああ、昨日飲みに付き合わされたのだろうってことは解ってるさ。だが、それだけで彼の名前が出るのはおかしいだろう?」
不愉快だ、と言わんばかりに言ってみせると、彼はぐうの音も出ないのか、声を殺して黙ってるのみ。
「…、……、ぁっ、……」
偶に彼も頑固なところがあるのは知っている。私がお仕置きだと評して何かをする時は特に顕著にでる。だが、今はそれすらも苛立たしい。
「ほう、黙るか。なら…これは、どうだろう?」
ベッドサイドから久しぶりに手に取るのは、エネマグラ…ではない。ローションだ。
ただのローションではなく、媚薬入りの。
彼には、ローションの事は知っているが、媚薬入りとは教えていない。
だからこそ訳がわからないといったような表情で私を見ているが、これから黙っているままでいられるのも時間の問題だ。
先に防水用のシートを彼の下に敷き、いよいよ本番だ。
ローションのボトルの蓋を開けると、そのまま彼のアナルに注ぎ込む。
さすがにこれから何が起こるのか、何となく自覚してきたのか克哉は慌てだした。
「ひゃああああっ!な、なに、これぇ…!や、やだ…っ、あ、あああ…」
ローションの半分ほどが彼の中に収まり切ると、私はしてやったりと、ローションのボトルに蓋を戻してからその辺に転がした。
「くっくっ。良い眺めだな。ああ、今まで使っていて気づかなかっただろうが教えてやる。今入っているのは、媚薬入りローション。つまり、強制的に鳴かせられる。
……どこまで我慢できるか見ものだな」
そろそろローションもブランド変えをしようとしていたので、ネタバレしてやると、彼はさすがに顔を青くさせて見せた。
「……! あな、たは、それで! 満足、なんですか? 俺はただ…、貴方が欲しい、それだけなのに……」
本気の彼の怒りと涙を感じ、少しやりすぎたかと反省してみるもののもう遅い。
「…なぜ、そんな風に言う?そんな事を言われてしまっては、私もやるせないではないか」
「だって……」
目を泳がして、しょんぼりしていく様には、私自身もため息をこぼすしかなかった。
「……解った。ちゃんと君の話を聞くから、そう泣かないでくれ」
「え」
「…君は、私をバカにしているのか?もちろん、後でゆっくりソレの続きはするとして、効果が出てこないうちに言いたいこと言い切ってしまうのが懸命だと思うぞ。
別に、君を蔑ろにしたい訳ではないんだ。ただ、いつも私といる時と雰囲気が違ったから、心配しただけで……」
己の恥ずかしい所を見せてしまったような気がしないでもないが、ひとまず彼の言葉を待つことにする。
少しだけ待ってみると、彼は重たい口をようやく開き出した。
「…昨日、飲み会に行った時。本多が言ったんです。
『あの御堂部長の恋人って…絶対、美人で…仕事もバリバリ出来る人間なんだろうなー!!
俺らには厳しい面しか見せない奴が~、恋人には甘いって噂だけど…うわ!!想像できねえ!!』
って」
……頭痛がしそうなほど馬鹿っぽい言い回しは、確かにあの本多なのだろう。
褒められているのか貶されているのか解らないセリフに、怒りすら湧いてくる。
「それで、俺。思ったんです。御堂さんと恋人同士になって…少しは自信がついたとおもったけど、でも。世の中の人達にとっては、俺はまだまだ、ただの何も持っていない男で。
……貴方の元に行くとは約束はしましたが、それだってこれからだし…まだまだだなあって思ってしまって…
貴方にとって、馬鹿な話だなんだろうと思います。
けれど、貴方のことが好きで好きで…俺を認めて欲しいと思ってしまう自分がいるんです。胸が軋むほどにたまらなく、貴方を渇望していて…どんどん、我儘になっている自分が怖くなって……。気づいたら、あんな風になっていました」
―ーーーー俺を決して離さないで
―ーーーー俺を拘束して
―ーーーー俺を…もっと愛して…
そんな風に思っちゃうんですよ。我儘、ですよね。
彼の言葉が、鈍器で頭を殴られたような感覚を覚えていく。
彼はなんと言った?
自信がない?
いや、それもだが違う。
決して離さないでと、拘束してと、もっと愛してと言い切った。
狂気じみた彼の愛は、私のしたことの結果なのだろうか。
今まで、いろんな事をした。思えば、エネマグラだけでなく色んな玩具を使ったプレイもした。電車の中など、絶対に私ですら困るような場所以外…殆どの場所で悪戯もしたし、彼もずっと乗じてくれていたのだから、問題などないと思っていた。
しかし、彼の愛の言葉は酷く重く、そして私への咎をこれみよがしに知らしめているのだと、誰かが笑っている気がする。
彼が私を攻める事はしていないのは解っている。
きっと、これは私の罰だ。愛していると、言っても克哉はずっとどこかで、私を疑い続けるだろう。
「…そうか、君は…そんなふうに思っていたのだな…」
私は、精一杯の笑顔で彼を抱きしめて言う。
彼が…克哉がそう望むのなら、私もそれに応えてやろう。
「……、は、は、…ぁ? な…に…、こ、れ…」
媚薬成分がようやく効いてきたのか、克哉は顔を赤らめさせてきた。
話している間はベッドに座っていた状態だったが、それも今は出来ないのか横たわっていて、息を荒げはじめてきた。
「ああ、ようやく効いてきたか」
「みど…さ…?」
「ん? ああ、お仕置きと言っただろう? だから…これから、新しい扉を開かせてやる。
気持ちよくしてやるから、覚悟しとくんだな」
気持ちよくしてやるという言葉に、彼は少しだけ笑ってみせる。
「……お手柔らかにお願いします…、」
「もちろん。…まあ、君の重い告白分はドロドロにしてやるさ。自信のなさアピール差し引いても十分お釣りはでるだろう。私がいかに、君なしにいられないか…その体に刻み込んでやるから…覚悟するように」
ニヤリと笑って見せると、ヒクッと彼の腰が震えた気がした。
「え、あの」
「うん?」
「え? えーと。あの…その」
「ああ、君が私が居ない事に不安になってしまったのは、私が居なかったからなんだろう?
なら、不在分も蕩けさせてやるから。…私も、ずっと君が側にいなくて寂しかったのだから…いいだろう?」
わざとそんな風に言えば、ほら。彼のいつもの言葉が零れてくる。
「貴方は…ずるい、です……俺が…言いたかったのに。寂しかった…って…」
ほらな。ずるいです、だなんて便利な言葉だ。
そしてまた、私達は夜の時間を、ドロドロに蕩け合うように互いの体を貪り合って過ごしていく。
外はまだ雨が降っていた。
でも、私達の声が外に漏れることはない。
これから、台風が来るのだから。それに乗じて私達は、たくさんの事をする。
end
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