top of page

​ブログパーツを利用しているため、CP別リンクは下記のタグで追ってください。

忘却の果て~another door 1

更新日:2024年5月30日

メガミド 「因果応報」後。シリアス。おそらく長編。

(1話のみ救出した為後日改めて続きを書きます)

____________________


気がつくと、薬品臭い匂いと白い壁に覆われた部屋に俺はいた。

ここは何処なのだろう。

記憶を辿ろうにも、頭痛が邪魔をして 思い出すことができない。

カシャン、と音がしてゆっくりと脇を見ると看護士らしき女性が 俺を見ている。

どうやら俺は、何が原因か入院していたようだ。

背中を走る痛みからして、その痛みが元で入院せざるを得なかったのだろう。


周囲がどよめく環境を様子見していると、どうやら俺は長い間植物人間状態だったようだ。

医師、看護士、両親らしい男女、友人と呼べる大男に、上司らしい中年の男が傍で心配そうにしている。

だが 思い出すことが出来ない。

何もかもが。


【忘却の果て~ anther door 1】


長い間、寝たきりの生活を送っていた為、俺は話すこともままならなかった。

だが、ゆっくりだが文字を書く事はできる。

リハビリを兼ねながら俺は少しずつ…現状を知る事になった。



母さんからおもちゃのホワイトボードを貰った。

小さな女の子らがよく落書き代わりにつかうボードと、

専用のペン。

おそらく使い勝手の悪い俺の手を心配して、破けてしまうような紙よりは

ボードのほうが描けるだろうという考慮からだろう。

そんな小道具ではないと、人に伝えるのも大変なのかと思うと 嫌でたまらなかった。


そのボードで知る事が出来た現状。

俺は佐伯克哉で、約半年前のある日の朝、血まみれで倒れている姿を公園で発見されたと言う事。

傷口の場所から言って、何者かによって背後から刺されたのだろうと言う事実、

それだけが解った。


容疑者は、御堂孝典という男が浮上し、現在拘留されているという。

と言っても、それ以外は聞かされていない。

何故なのか、理由を聞こうとしても 俺はその心配よりも、今は体のリハビリに専念しろという言葉のみで、それ以外の答えを用意してくれる事はまったくなかった。


俺は、思った以上にプライドが高かったようで

本来ならかなりかかるであろうリハビリを1年も満たずに終了させた。

人にされるがままというのが、性に合わなかった。

してもらなくてはいけないという状態が許せなかった。

意地で、克服させるしかなかった。


暇を見つけ出しては来る、親友の本多は「それでこそ克哉だよな」

なんて言う。

以前の俺は知らない。

ただ解るのは、たまに彼が言う言動に無性に腹立たしくなる事ぐらい。


「だけどほんっと、スゲえよなあ。お前、普通に考えてもリハビリなんて1年以上かかるって言われたんだろ?それを…半年かかったか、かからなかったぐらいで終わらせるんだからなあ。」

「それだけ、俺の身体能力が元々良かったんだろう? 喜ばしい事じゃないか」

「へーへー、記憶がなくてもそういう性格は変わらねえのな…」

退院の、この日も本多は俺を様子見に来ていた。

暇人、と言った事もあったが 基本的にこいつは 俺の話を聞こうともしない。

友と呼べる者に対して心配性なのか、好奇心なのかはさておいても

俺が来なくていい、と言っているのに来るあたり どうかしているとしか言い様がない。


「と、そうだ いけねえいけねえ、忘れるとこだった。

あのな、話…あるんだけどいいか?」

「?ああ。ここじゃできない話か?」

本多にしては珍しく、神妙そうな面持ちで何かを言おうとする姿。

その姿に 何か、良くないものを言う予感だけが 募っていった。




いくらリハビリを終えたからと退院をしたからと言っても、社会復帰するにはまだ時間がかかるらしく、

時期が来るまで両親が俺のアパート近くにあったらしい民泊施設の一階のフロアを借り、そこに俺も泊まることとなった。

なんとか歩けるようになったとは言っても、杖は外せないし、傷つけられた背中は神経も傷つけられていたらしく、軽度とはいえ一生残ることになった左半身の麻痺もあるから、以前働いていたらしい会社へは自動的に退職扱いとなったのもある。退職申請は両親がしてくれていたらしく、今は半ば手持ち無沙汰な気持ちでいる。


しかも一時期のとは言え、記憶喪失の俺に自らの力で実家に帰るのは普通に難しい。


両親の元の住まいでもある実家は栃木である。さすがに新幹線を使っての移動を考えると、両親がこちらにしばらく泊まるのが一番ベストだろうと考えに至ったのだろう。

民泊施設である家は、手入れはされているがそれほど高価な見た目ではないらしく、少しだけ実家のような趣もあって、リラックスできる見た目だったのが好印象だった。

戸建てのその建物は、ごく普通の日本家屋でもある。その影響は大きいだろう。

家主は、うちの事情を知ると安く貸してくれていたらしく、両親はこの家に来てからずっと機嫌がいい。

ずっと俺のことで心配をかけていたから、せめてそういう些細とは言えなくとも別のところで機嫌よくいてくれるのはありがたいとも思う。


家は、日本家屋の一階ということもあり、少しだけ昭和のような雰囲気が残っている。

その一室である畳の部屋を、俺の部屋にとあてがわれた。ローベッド付きの部屋なので、さほど寝るのに苦労がなさそうなのは救いだ。

中に入ると、俺のアパートから持ち出されていた本の山となっている紙袋とスーツケースが、無造作に置かれていた。

よく見てみると、ハンガーラックはしっかりあるから、そこになら自由に服をかけていいと言うことだろう。


「おっ、やっぱり克哉らしい部屋だな~本がいっぱいある…」


俺の後ろから覗いていた本多は キョロキョロしながら、俺の部屋を物色しはじめていた。

相変わらず、図々しいやつだ。


しかし、今は感傷にひたっている暇などない。そんな事よりも話が先だ。


「おい、話があるんじゃないのか?」

言ってみたものの、本多の探究心は無くなる事がないようで、さらに押入れまで手をかけようとする勢いだ。


「カタイ事言うなって。時間はあるんだしよ~エロ本はどこだエロ本は!!」


「…それ以上詮索するようなら、この部屋から外に放りだすぞ」


「うっ。わぁ~ったよ…」

さすがに、これ以上されるがままでいるのは気分が悪い。

本多の暴走を止めて、話を進めさせる事にした。


「適当なとこに座れよ」


「ああ」


本多は、ベッドに腰掛けた。

俺は傍のソファに座り、足の緊張をくずしていく。


「で? 一体何なんだ、改まって」

単刀直入に聞いた。

本多は歯切れ悪そうにしていた。


「…お前も、だいぶ調子戻ってきたみたいだからな。記憶はまだ戻ってないが…

きっと知っておくべきなんだろうと思って、な」


目を泳がせるようにして、苦虫をかみ締めるような言い方でしどろもどろに少しずつ説明しようとする。

明らかに様子かがおかしい。


「…? 何なんだ、お前はさっきから。前置きはいい。さっさと言え」

つい、イライラして言ってしまった。


「…っ、いいのか…? お前が良いって言ったんだからな。言うぞ?」


「ああ、かまわない。回りくどい事をされるほうがかえって面倒だ」

俺がそう言うと、本多はごくりと唾をひと飲みし、こう言った。


「御堂な…、実は精神科に入院してたんだ…。

しかも、元々はひどい交通事故に合って、それで入院していたって話だ。」


「御堂…って、あの俺を刺したかもしれない奴か?」


「ああ…」


「なのになぜ、そんな事に?」


「し、知るかよ。俺だって吃驚してるんだ。

 だって、御堂だろ?まさかそんな事になってたなんて思わないじゃないか。とにかく、そういう事になってる。」



ふうん、と頷きながら、当時の出来事を思い描いてみる。

記憶は消えていて、今解っている事実と状況だけを並べた結果のものでしかないが、それだけでも少しは当時の背景が見えてくるだろう。


 俺を御堂が刺した後、現場からすぐに離れたはずだ。

御堂が事故にあった場所が、事件現場からどのくらいの距離かは解らないが、事件を起こした直後の事故だとすれば、彼自身もその時にはすでに狂っていて、自身の状況を判断できていなかったと思うのが大方の道筋だろうか。

 そうだとしたら、俺が彼に対して何か酷いことをしていたのかもしれない。

 そうでなければ、一人の男がこんな誤った道に走り、結果、事故にあい、精神を病んでしまった理由に説明がつかない。

 とはいえ、容疑者の一人が、病人となっている、その事実が消えることはない。

記憶が途切れてる俺には、どうしようもない。

なのに、どうしようもなく…背中と、胸に突き刺さるような痛みが走る。



御堂は、一体何を思ってこの狂気に走ったのだろう…それだけは知っておきたい気がする。


本多は、硬い表情で、もうひとつ口にしていった。 


「それとな、御堂の入院先。お前が入院してた病院の精神科だそうだ」

「…となると、あの鈴菱の総合病院か?」

「ああ」

「じゃあ、俺がいつそいつと対面するか解らないって…事だな…」

すぐ傍に、彼はいた。

もしかしたら今までもすれ違っていたかもしれない。


忘却は罪

忘却は罰――。


忘れるな!


過去の自分に言ってやりたい。

けれど思い出そうとしても頭痛が先走り…余計に記憶が遠のいている気がしてならなかった。









週明けて月曜、完全に実家でも自宅でもない部屋での、養療生活となってから初めて病院に行くことになった日、

何故か起きた時から妙に緊張していた。

本多から御堂が入院していると聞いたからだろうか。

会う可能性も低いだろうに、そこに居るというだけで 妙に胸がざわめいた。

嫌な予感という訳ではない。しかし、何か妙なものがはじまる気がした。


医師に体調報告をすませ、早く帰ろう。

即座に俺は 判断した。

意を決して正面玄関から病院に入ると、そこは受付のホールが見えた。

目の前の柱には、案内図があり このフロアから、他の階の病棟の場所までびっしりと書いてあった。

総合病院とも言える大きな病院のためか、病棟は、このホールを突き進んだ奥にある。

また、精神科の病棟は、患者のためにと 一般病棟のとある階段を使わないと行く事ができない仕組みになっていた。

入院時に多少、この病院の構図は把握していたつもりだが 精神科の病棟までは 把握していなかったから、ここで知っておいて正解だった。

これなら、あの御堂とかいう男に会う事もないだろう。


ふと、思い出したように受付へと向かっていくと、

奥のほうで あわただしく看護士が病棟に駆け込んでいる様子が見えた。

まさか、御堂か?だとしても 容姿など思い出せないのだから 本当に彼かどうなのかも怪しいのだが。

不安を眉間に皺をよせながら、傍に寄って様子を窺った。


「いやだ…いやだ…!!来る…奴が来る…!!」


誰かは解らない。が、患者の一人がパニックになって騒動を起こしているのは見てすぐに解った。

本来なら、そこにはいないだろう精神病にかかっている患者のひとりだろう。

どうやってか、一般病棟をつたって 受付のホールにまで来てしまったようだ。


「落ち着いて!大丈夫だから!!」


「彼を早く病室へ!」


「車椅子か何かはないのかっ?!」


「持って来ました!」


看護士のあわただしい声が、飛び交う。

「あそこにはいたくない!あいつが来る!!」

大の男が暴れてしまうと、女の看護士では頼りないものなのだろう。

男の看護士が2人がかりで、パニックになっている男をとりおさえて 車椅子に固定させていた。

その間際に、俺の目と、彼の紫かかった瞳が、重なった気がした。


「…っあああああああああ!!!!!!」


また、彼の叫びが響き渡る。

俺が原因だろうか。しかし、このままでは埒があかないだろう。

俺は歩み寄り、彼を背後から気絶させる事にした。



自分の診察を早々と終えさせると、医師から、珍しい事に話を聞く羽目になった。


「そういえば、さっきは大変だったね。

1階で、精神科の入院患者が暴れていたんだろう?滅多にある事じゃないんだけど

まさか、あそこまで彼が来るとは思わなかったから うちの看護士も医師も、戻すのに一苦労してたようだから 逆に助かった、と君がここにくる直前にコールで連絡を貰ったよ。

本当に助かった」


「いえ。あのままでは、誰かが怪我をしかねませんでしたから」


適当に答えたつもりだった。だが、あの男の瞳と、微かに触れた髪が、それだけと言わせない何かがあるようにも感じた。

医師も、俺の営業スマイルを感じ取ったのか、訝しげに見つめている。

さらに驚く事に、それだけで納得する事はなかったようで 食い下がるように、俺に言っていった。


「そうかい?しかし、彼…御堂君だったかな。あの人とは、何か関係があるんじゃないか?」


まさか、と思いたかった。


「御堂…まさか、御堂…孝典…ですか…?」


知りたくない。

けれど、今知っておかないと後悔する気がする、そんな気がしてならない。


「やっぱり、知り合いなんじゃないか。そうそう、御堂孝典っていったかな。彼」


冷徹にも、現実は 医師の言葉で予感を、的中させていったのだった。




俺と彼が、事件の関係者である事を知るものは限られている。

病院側でも知っているのは、ごく限られた人間だけだろう。

フルネームを出したりしなければ、気付かれる事も殆どない。

御堂が、あれからどうなったのか無性に気になって、俺は本多の名を借りて 様子を見に行った。

先に決めていた予定を変更してまで、どうしてここまでするのか 自分でも解らない。

だが、確認をしないままで帰えれなかった。

彼が使っている病室の番号は、適当な理由をつけて、たまたま通りかかった女性看護士に聞きだした。

迷う事はない。

彼の病室に近づくにつれ、不安と緊張が高まった。

また、俺を見て暴れやしないだろうか。

絶叫したりしないだろうか。


ゆっくりと息を吸い、ノックをした。

彼の声は聞こえない。


「…入ります…」


言って、スライド式の扉を引いて、中を見た。

瞬間に、風が吹いた。

カーテンが風で開く。

…そこには、確かに、あの暴れていた男がベッドの上で居座っていた。



彼は、受付フロアで暴れていた時とは打って変わって、妙なほどおとなしいものだった。

鎮静剤を投与されている可能性もあるだろう。

しかし、精神病が原因している気がしてならない。


「あの…御堂さん…」


「……」


「御堂さん?」


「……」


ずっと、彼は俺を見ようともしないで 空ばかりを見ていた。

聞こえているのかどうかも怪しいものだ。

俺も、返事もしてくれない彼に、ずっと名前を呼ぶ気はない。

だけど、離れがたい。

しばらく、様子を見てみるのもいいだろう・・・

そう思うと 俺は、面会者用の椅子に腰をかけていった。


「…そこにいるのは、誰だ…?」


1時間ぐらい経ってから、ようやく御堂は、俺に気付いたようだった。


「…大丈夫ですか?今朝、俺の前で暴れていたでしょう…

気になって、つい来ちゃいました」


「誰…?」


彼もまた、俺を覚えていないようだった。

不幸中の幸いだろうか。それとも、悲しんだほうがいいのだろうか。

俺自身も、過去の繋がりを覚えていないのに、どうしろというのだ。

本来ならば知り合いのはずなのだから、またイチからはじめなくてはならないのがおかしくてたまらない。

今更自己紹介をしたとして、何になる?

ただ傷つけあうだけだというのに。


とっさに 言う名前を、嘘つこうとした。

けれど、俺の顔を見ても、さして変わる事のない彼の表情に賭けてみようとも思った。


「佐伯…克哉です…」


彼はどう思うだろうか。

叫ぶだろうか。暴れるだろうか。

だが、変わる様子は、待ってみても まったくなかった。


「さえき…そうか…」


しばらくしてから、爽やかに笑いながらぽつりと言った。

意味などない、ただの笑顔が脳裏にべばりつく。

一方で俺の胸は、なぜか痛むほど軋んでいった。







最新記事

すべて表示
モーニング・コール

メガミド。短編集になるはずだった作品の1つ。もちろんWEB公開は初出。 寝起き?ドッキリエッryなメガミド。甘い。 ____________________ これで何度目の朝がきただろう。 自分の体がどこか別の場所にでも置かれたかのように重くなっていくのはいつもの事とはいえ...

 
 
 
RAIN

御克。無印後→ファンディスク直前の出来事。ちょっと仄暗い。BestEND後からの臆病な純愛変異ENDもおもしろいかもと書いたもの。 / お蔵入りになった短編集(未公開)の1つ。 _________________________...

 
 
 
熱中症の罠

メガミド。熱中症にかかった御堂さんと調子に乗る眼鏡。短いSSSS ____________ だるい… 気付くと、佐伯の部屋でいつの間にか横になっていた。 最後の記憶が曖昧で、はっきりしないもどかさを感じて部屋をぐるりと見回していると、 鈍く感じる頭痛と嘔吐感に襲われ…...

 
 
 

コメント


©2023 direction  Wix.com 

© Copyright 葉鯆処 / 瑞祥啓可®™
bottom of page