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雨降る中、2人きり

メガミド。ただ甘い。

_________________


 季節は春。

 佐伯と興したAAも1年強の歳月を経て、社員が少しずつ増えていった。

 当然、女性社員も数名起用している。

 そのせいか、以前はなかった華やかさがこの数ヶ月目にする事があった。

 例えば、花。

 ある日 社に行くと、デスクの上に花が置かれていた。

 こんな事をするのは、さすがに佐伯や他の男性社員がやるとは思えない。

 また、談話。

 休憩の合間に談笑する事は ままあるが、女性の甲高い声と尽きる事のない話に、閉口する事もある。

 とにもかくにも、女性が社内にいるようになってから、佐伯との関係も少し変わったような気がしないでもない…というのが、今の私の現状である。


 というのも、先日。昼休みに、AAのあるビルのレストランフロアで社の女性らがいつものように、とりとめもない話をしていたのだが 偶然にも、思いもしなかった内容を聞いてしまったからだ。

「今度の休みさ、どこか行く?」

「あーいいわねー!旅行とかしたい!」

「彼氏とデート?いいわね~」

「いいじゃない。せっかくの連休、マイナスイオンでまったりと愛をはぐくむのも悪くないわよ?」

「私は…あ、駄目だわ。あいつったらせっかくの休みなのに私と一緒にいるより

家で寝てたいとかぬかしてたから…」

「きゃははっ!!それってベッドの中で過ごしたいの~ってやつ?別にいいじゃない~」

「…違うんですけど。」

「どうでもいいけど、フリーの私にそんな話を聞かせないでくれる~?」

「ねえねえそれよりもさ…」


 連休を間近に控えた日にとってみれば、女性からするとデートや旅行は、話の種となるのだろう。しかしそれにしてもだ。私と佐伯が付き合うようになってからと言うものの、デートらしいデートをした事がない。

 それが嫌というわけではないが、女性の色恋話を偶然とはいえ、聞いてしまったせいだろうか。私自身、滅多に目立った外出をする事はなかったから 慣れないその単語が、その日から離れる事がない。

「デート…か…」

 佐伯と、デートをしてみたい…気がする。

 しかし、私から誘うなど、とてもじゃないができる気がしない。


「御堂さん?」

「!!」

 佐伯に、独り言を聞かれてしまっただろうか。

 そんな恥ずかしい事があってたまるか。

 様子を伺うと、傘越しに心配そうに私を見つめていた。

 今は帰り道。

 今日は、夜に酒の場で会合があった為に、車はない。

 それなのに朝から止むことなく雨が降り続けていた。

 さすがに傘を差している為、いつも以上に距離を感じながら歩きでの帰宅となっている気がする。

 私の声は、雨の音が隠してくれただろうか。

 内心ドキリとしながら、佐伯に返事をした。

「いや、なんでもない。」

 さして私の言葉を気にしている事も無く、佐伯は隣を歩く。やはり、雨で独り言は聞こえることはなかったようだ。

「そうか。」

 と言って、また顔の向きを戻して歩いているのだから。

「それにしても、今日の会合はあまり実りのいい内容じゃなかったな。」

「そうだな…」

 今日の会合は、契約を結びたいという新規の顧客の依頼によるものだった。

 だが、結局 内容として 私達が納得のできるものでなかった。

 その為、不機嫌になるのは解る。

 しかし、2人きりとなったのだから、本当はこんな話ではなくて別の…もっと、ちょっとしたデートの気分になるような話題を出して欲しい、とも思う。

 けれど元々、素直に愛を語る奴ではないのも事実。言わせたとしても、変わりに見返りを求めるだろう。そんな気がする。

 だから、私も必要以上の事は言わない。言えない。そんな時間だけが、過ぎていくかに見えた。



 歩き続けていると、夜道の中だと言うのに 商店街の店の暖簾下で佇む少女がいた。

 傘を持たずにいるから、雨宿りをしているのには間違いないだろう。

 だが、これからどんどん暗くなっていく時間の中、そのままにさせるのも問題だろう。

 滅多な事ではやる行為ではないけれど、意を決して 私は、彼女に傘を差し出した。

「こんな時間に、こんなところで雨宿りをするものじゃない。…この傘はあげるから、さっさと帰りなさい。」

 私の姿に、少女は驚いたようだ。赤の他人が、滅多にこんな事をするなどないだろうから

気持ちは解る。言っている自分自身も、一体何をしているんだ、と思うぐらいだから致し方ない。

「…!!す、すいませんすいません!!で、でも…そうしたら…」

心配そうに少女は私を様子見た。

「ああ、気にするな。私はこいつがいるから。」

佐伯を指しながら、だから気にするな、と彼女を促した。


「ありがとうございます…っ」

 彼女は、私にお礼を言うと、走るようにして 私とは逆方向へと去っていった。

「御堂さん、案外お人よしだったんですね。知らなかった。ちょっと焼餅やいちゃいましたよ。」

 苦笑いしながら、佐伯は私を濡らさないようにと傘に案内してくれた。

 ふわりと、彼から煙草の匂いを微かに感じて、寄り添う形になった気がする。

 ドキリとしながら歩き出すと、佐伯の手が、私の手とぶつかった気がした。

 妙な気分がする。

 手を繋ぎたいと思う。

 けれど、男同士が繋ぐのは目立つ気がする。


 悶々としながら歩いていると、また手がぶつかった。

 一体どうしたのか…と思って、ちらりと佐伯を横目で見つめてみた。

 ほんのり頬を染めながら、触れるか触れないかの位置で手を動かしてる…

そんな気がした。

 彼の意外な姿に、思わず胸が鳴ってしまう。

 佐伯も、手を繋ぎたいと思ってくれていたのだろうか。

 なら、素直になってほしいと思う。

 こんな時だけ、可愛い事をしないでほしいと思った。


 駅に着き、少し落ち着こうと 屋根のある場所で一服する事にした。

 自販機の珈琲を購入し、ベンチに座リ込む。

 周りはすでに人影もほとんどなく、2人きりだ。

 そのせいか 先ほどの事を思い出すたびに、しゃべるきっかけが掴めず。

 …気まずくなっていた。

 何かを話さなければ。

 デートの話でも、仕事の話でもいい。

 なのに、妙に緊張して 口を開く事ができない。


 さほど時間が経った訳ではないが、沈黙の間が長く感じてしまったせいだろうか。

 ふう、とため息をつきながら佐伯は時計をチラッと見ていた。

 次の電車がいつ来るのか、確認していただけかもしれない。

 だけど、なぜかせつなく…泣きそうな気分になった。



 電車の発車予定時間がせまったのだろうか。

 佐伯がようやく口をひらいて言った。

「そろそろ行きましょうか。」

「…ああ。」

 うまく言えているだろうか。不安になる。

 熱くなった目頭がこれ以上どうにかなる前に、顔を隠した。

 だけど、その行動はかえって 佐伯に心配させてしまったようだ。

「御堂…?どうし…」

 見開いた目を私に見せつけて、逃がさない、と腕をつかんできた。

「…っ!!」

 見せたくなかった。

 考えすぎただけなのだから、こんな自分…今までになかった感情を、佐伯に見せたくなかったから。

 だけど、掴んだ腕を、佐伯は離そうとしなかった。

「なんでもない、訳がないだろう?そんな今にも泣きそうな顔をしてれば…心配、しないなんてできるはず…ない、からな…」

「……」

 言えるはずがない。

「御堂…」

 佐伯も、何もしてくれないのに。

 だから言わない。

「御堂」

 私は、沈黙だけを保つ。


 私があまりにも言おうとしなかったせいだろうか。

 佐伯が、後ろから私を抱きしめてきた。

「一体、何が御堂をそうさせるんだ…?俺が…嫌になった…のか…??」


 辛そうな、佐伯の言葉に私はドキリとした。

 そんなはずがないのに、何を言うのだ。好きすぎるから、困るだけなのに。

「ちが…っ!!そんな訳があるか…っ!!」

 抱きしめる佐伯の腕の力に、ぎゅっと、入った気がした。

「そうなのか?」

 一緒にいたい、それだけだ。

「ああ。」

「俺が嫌いなったんじゃないんだな?」

 何度も言わなくてもいい。佐伯が傍にいてくれれば、それだけでいい。

「ああ。」

「そうか…なら、よかった…」


 佐伯は、なんとか安心したのか 今度こそ、私の手を握ってきた。

 少し緊張するけれど、誰もいない駅のホームなら、悪くないかもしれない。

 旅行だの、デートだのはまだまだ出来ないかもしれないけれど

 私達のペースで、愛の営みができればいいかと

 雨が降る2人きりの中、思うようになっていた。




END


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